生活音

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洗濯

食品サンプル(とある姉妹の話2)

23時で利用時間を過ぎたはずのコンビニのイートインコーナーから途切れ途切れに宇多田ヒカルの「誰かの願いが叶うころ」がもう1時間は聞こえ続けていた。「僕が声を掛けてきましょうか?」品出しを終えてレジに戻ってきた新人研修を先週終えたばかりの太田く…

大きなロボットNOBUNAGA2

誰も住まないビルを建てる仕事をしている。合コンで掴みだけは完璧なフレーズではあるものの、要するにただの建設業だ。人が住まないという点が一気にマイナスに働いて食いつきはビックリする程に悪い。昨日の合コンの収穫の無さを工程表を眺める事で頭から…

大きなロボットNOBUNAGA1

500m先でビルの倒壊する音と地鳴りが伝わってくる。もし倒れたのが自分の立っているビルだったら、何度似た光景を見ても山崎はそう思うと足が竦む気がする。しかしそうは言っていられなかった。仕事をしなければならない。「防衛隊の情報によりますと、この…

飛び出しぼうや(とある姉妹の話1)

1週間の出張が終わり、美大に通う妹とシェアしている古い平屋の家に帰った私を驚かせたのは和室の襖の隙間から半身を乗り出した飛出し坊やだった。電灯を灯し、代わり映えせず散らかっている居間を見渡して溜息をついていた私は、視線を感じて居間の左手にあ…

親父のコロッケ

俺の親父が死んだ。身体を動かす仕事をしていたのに、寝ている間に呆気なく死んだ。誰にも注目されない、寡黙でコツコツ働く穏やかな親父だった。変わった点と言えば毎週末必ずイオンでコロッケを買ってくることくらいだった。派手好きの母がそんな親父に愛…

20XX

突如死の彗星が地球に迫り、99%直撃するだろうと発表されたあの日。世界中が悲しみに暮れる中、一人の男の子が世界の終わりを歓迎する発言をSNSに書き込んだ。彼は苦しかった。彼から徐々に彼である事を奪っていく毎日が打ち切られる可能性に安らぎさえ覚え…