生活音

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大きなロボットNOBUNAGA2

 


誰も住まないビルを建てる仕事をしている。
合コンで掴みだけは完璧なフレーズではあるものの、要するにただの建設業だ。
人が住まないという点が一気にマイナスに働いて食いつきはビックリする程に悪い。
昨日の合コンの収穫の無さを工程表を眺める事で頭から締め出し、里見は今日の作業予定を組み立てる。
軍事訓練と観光事業を兼ねた国家的な取り組みに従事しているだけに給料は悪くない。
元々、高専の機械工学科で特殊な重機の扱いにも慣れていたので特に苦労した経験もない。
里見たちの仕事は、隔週で行われる戦闘の為に街を作り直す事だった。
昨日までで瓦礫の撤去は終わっている。今日は担当するビルの鉄骨軸組を完成させるのが彼の仕事だった。
「こんなに技術が発達して工期が短縮出来てるのに、結局隔週でぶっ壊すんだもんな」
機械にプログラミングをして監視と操縦するだけの孤独な作業なので独り言が増える。
脳裏にスクラップアンドビルドという言葉が浮かぶ。少し意味合いが違うな、と苦笑いして里見は鼻歌混じりに施工ロボット用のプログラミングを組み上げていく。
そんな彼とディスプレイの間に突然A4の紙が差し出され、里見はギョッとして紙が飛び出した方向を見やった。
「フジ・・・びっくりさせるなよ」
そこには高専で同期だった藤井が人懐こい笑顔で立っていた。
里見は鼻歌を聴かれたのではと恥ずかしさもあってぞんざいな態度を取ったが、内心では久々に藤井に会えて嬉しかった。
「今日はオフか?」
予備のヘルメットを藤井に渡し、プログラミングを登録してから尋ねる。
藤井は受け取ったヘルメットを被りながら答えた。
「うん、久々に。それよりサトちゃん、それ見て」
言われて先程差し出された紙を見るとそこには「技術者10名募集」と記載しれていた。
「NOBUNAGAか怪獣か配属は未定らしいんだけど、機体開発で求人が出てる。一緒に受けようよ」
藤井は工程を黙々とこなすロボットを眺めながら言う。
里見は溜息をついた。
「お前、まだ技術者に憧れてんのか?折角ヒーローになれたってのに」
「僕なんか所詮、1クールに1話しかメインがないイエロー役だよ?来年には皆、忘れてる。ロボットが好きなだけなんだから、それ以外じゃ役者なんて続かないよ」
ぽっちゃりとして恰幅が良い藤井は高専の演劇部出身であるのに加え、人懐こさを買われてNOBUNAGAに乗り込むヒーローとして採用されていた。
芸能人になってからもその性格の穏やかさは健在で、親友の里見としてはその人の良さが心配でもあった。
その藤井が冷静に自分の状況を分析している。
里見には同い年の彼が大人びて見えた。
「ねえ、ヤマちゃんも誘ってさ、三人で受けようよ!」
「山崎はツアーガイドやってるだろ、あいつ今度昇格して内勤になるらしいぞ」
「そっかー」
もう一人の親友の昇進話を聞いて、藤井は「それは誘いにくいなー」と残念そうに呟いて続けた。
「僕とサトちゃんとヤマちゃんのチーム、無敵だったのになー」
三人で組んでロボットコンテストを連覇した事を藤井は今のヒーローの経歴よりも誇っているらしかった。
窓が予め嵌め込まれた外壁パネルを物珍しそうに撫でる藤井の姿を視界の隅に捉えながら、もう一度求人票を眺める。
三人とも、ここを目指していたはずだった。家庭の事情や求人そのものが無かったりしてチャンスを逃してしまったのだ。
「あのロボ、右のアーム調子悪そうだね」
藤井に言われて見上げると、2階の鉄骨梁を組んでいるロボットが確かに不規則にアームを揺らしていた。
「フジ、修理してみるか?」
尋ねると満面の笑みで藤井が頷いた。相変わらず根っからのメカ好きらしかった。
「俺さ、この仕事も結構気に入ってるんだよ。二週間で建てて、10分で壊される誰も住んでない街だけどさ、オンエア観て、あ、俺のビル派手に壊れたなとか思って」
藤井は下ろしたロボットのアームを分解しながら時折こちらを確認する様に視線を送りながら聞いている。
「それで子供とか外人が興奮して、わざわざ観にくる訳。別に俺のビルを観にくる訳じゃないって解ってるんだけど、なんか、いいなって思うんだよな。合コン受け悪いけど」
高専の頃より迷いなく分解し、焼き切れた線を修復しながら藤井は笑った。藤井が未だに自主的に勉強している事を技術が物語っていた。
「でも、やっぱNOBUNAGA触りたいな」
藤井が代弁する様に言い、里見は苦笑いした。
「ヒーロー様も転職する時代か。世知辛いもんだな」
「そう?自由でいいじゃない。これでどう?」
教科書徹底型の几帳面な補修箇所を指差して藤井が言う。
確かにヒーローなんかにしておくには惜しい腕だった。
何だか悔しくて里見は意地悪そうに言った。
「でもお前、転職なんかして週刊誌に載ってたグラビアアイドルにフラれても知らないぞ?」
「あんなのガセだよ!スタッフと食事行ったらいただけだもん!!!」
真っ赤になって否定する藤井を尻目に、修理したロボットの動作を確認しながら里見は言った。
「受けるか」