生活音

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大きなロボットNOBUNAGA1

 

500m先でビルの倒壊する音と地鳴りが伝わってくる。
もし倒れたのが自分の立っているビルだったら、何度似た光景を見ても山崎はそう思うと足が竦む気がする。
しかしそうは言っていられなかった。仕事をしなければならない。
「防衛隊の情報によりますと、この度の怪獣は太古に地球に堕ちた彗星が地中で数十万年かけて変貌を遂げた岩石の怪獣、との事です。怪獣No.452、デラロックと命名されました。」
資料を手にマイクを通して説明すると無線ガイドを装着した観光客が口々に「デラロック」と漏らす。
外国語が一切話せない山崎でも外人に説明が通じるのは無線ガイドの通訳機能のお陰だった。
「デラロックの体長は50メートル、体重は3万トンと推測されます!」
観光客の興奮した表情と、その視線の先にいる岩を人型に掻き集めた様な50メートルの怪獣デラロックを交互に見ながらマイクを下げ、ため息をついた。
隣のビルの屋上にも同じ会社の同期ガイドである太田が率いるグループがデラロックに興奮していた。
太田から社員用の無線が入る。
「今日はどうする?」
「ドリル」
「じゃあ俺は爆弾」
通信はそれで途切れた。
山崎達は怪物がどう倒されるかにランチを賭けるのが週に一度の楽しみだった。
そう、行く手を阻むビルを豪快になぎ倒す怪物は、必ず倒される運命にある。
デラロックから離れた無駄に巨大な交差点がハッチの様に開き、地面から巨大なロボットが姿を表す。
山崎はそれを指差しながら何度口にしたか解らないセリフを感情を込めて放つ。
「ご覧下さい!40メートル、1万トンの動く要塞にて日本の技術の粋、鮮烈なトリコロールカラーのスーパーロボット、NOBUNAGA!!!」
子供や外国人観光客から大きな歓声が挙がる。
その歓声に応えるようにNOBUNAGAはファイティングポーズを取る。
デラロックがNOBUNAGAに気付き、猛然と向かっていく。人型であるものの完全な二足歩行が出来ないNOBUNAGAは足裏のキャタピラと背中一面についたブースターを稼働させ、デラロックの突進を受け止めた。
「いけー!ノブナガタイフウだ!」
子供が叫ぶ。NOBUNAGAは足を固定したまま、腰から上を高速回転させ、デラロックをジャイアントスイングの要領で振り回し、ビルに向けて投げ飛ばした。
ビルと共に倒れるデラロックに向き直り、肩に設置されたドリルを拳に装着するNOBUNAGAを目にし、山崎は小さくガッツポーズをする。
「ランチもらいっ」
「ドリルパンチ!!!」
外国人観光客の雄叫びが山崎の声をかき消す。
NOBUNAGAはブースターの加速で一気に間合いを詰め、回転するドリルの拳をデラロックに打ち込んだ。
怪獣の断末魔、そして盛大な爆発。
爆風で土煙がこちらに迫ってくるのを確認して山崎は素早くマスクとゴーグルを付ける。
客には事前に伝えてある。あとは自己責任だと山崎は割り切っていた。
そして不思議な事に、思い切り酷い目にあった客の方が楽しそうな事が多いので気にしない事にしていた。
土煙と風に揉まれて観光客一同のテンションも最高潮。
それを冷静に眺めながら、無線で太田に連絡を入れる。
「ご馳走様」
「クソが」
「迫力満点の戦闘でしたね!それでは皆さん、NOBUNAGAと記念撮影を致しますのでどうぞこちらへ!」
太田からの返事も聞かず、山崎は観光客に呼び掛けた。
この国最強の軍事兵器にて、最高の観光資源である巨大ロボットは各ビルで同じ様に観戦していた観光客の撮影タイムの為にゆっくりと角度を変えながらそこに立っていた。