生活音

文章を載せています。

20XX

 

 

突如死の彗星が地球に迫り、99%直撃するだろうと発表されたあの日。
世界中が悲しみに暮れる中、一人の男の子が世界の終わりを歓迎する発言をSNSに書き込んだ。
彼は苦しかった。彼から徐々に彼である事を奪っていく毎日が打ち切られる可能性に安らぎさえ覚えた。
だが、彗星は逸れた。
1%の可能性は人類の愛が呼び起こした奇跡と謳われ、世界中で明日は今日になり昨日になっていった。
その中で彼だけが不幸せだった。
SNSでの彼の人類滅亡支持は連日見知らぬ人間から否定され、拒絶され、攻撃され続けた。
良心と善意は少し違う。
数で決まる良識が不謹慎を叩き潰す音が彼の耳にこびりついた。彼は学舎を去り、将来を失い、家族と離れた。
それすら当然の報いだと言われ75日で根刮ぎ破壊され尽くされ、いとも簡単に忘れ去られた。
ネットに残るバラバラになった残骸と一つ一つの暴力の形を探しては拾い集めた。
涙を流しながら、思い出の様に。
1%の愛の奇跡から20年後、世界は滅亡する。
全人類の人生にピリオドを打った彼は最期にこう言い残した。
「私は悪意に依存する善意から人類を救ってやりたかったのだ」